明日、就職の面接があるというのに、私は五十代半ばを過ぎた、小太りの男を目の前にビールを飲んでいた。私と彼は同じ会社で働いているが、私は非常勤で、彼は管理職である。明日の就職活動に役立つ、耳寄りな情報を聞けると思って、この時間まで話し込んで…
授業が終わって廊下に出ると、声を掛けられた。 「今度、教会でクリスマス会をやるんだけど、もし良かったら来ないかい?」 その人は少し小太りだが、こざっぱりとした身なりの青年だった。私よりも二回りほど歳上だったと思う。そして、その人は自己紹介を…
狭山丘陵の町の片隅に佇む喫茶店 オンブル。当時、自転車で図書館めぐりを趣味にしていた私は、夏の午後に同店を訪れて以来、週末ごとに通い詰めるようになった。マスター ヤストさんとママ アキさんの二人で店を切り盛りしていて、平日、ヤストさんは本業の…
朝、起きると、捕えどころない憂鬱に襲われた私は、安物のブランデーの瓶を掴んだ。一昨年から出現し始めた憂鬱の正体は、未だに解らなかった。少し前まで精神科に通って、薬を貰っていたのだが、いつの間にか止めてしまった。診断では躁鬱病と言われたが、…
夕方、会社の仕事を終えて、自宅のアパートに帰ると、玄関に一人の女が坐っていた。女は夏の赤光に照らされ、ビールを飲みながら、歌を歌っていた。彼女は私を見るなり、「Kくん、お帰りなさい。私、待っていたの。『別れる』と言われて、私、とても悲しかっ…
私が小学一年生の時のことである。当時、埼玉の郊外に住んでいたが、その頃、徐々に南米、特にブラジルからの移民が増えてきた。近隣の建設業、製造業の雇用の関係があったのかもしれない。父・母が日本人で、子供が日本で生まれ、日本の学校に通うケースが…
小学二年生の頃だろうか。私は父に連れられて、近所の公園で逆上がりの練習をしていた。当時、私達一家は埼玉の郊外に住んでいたが、大人になって東京に住んでみると、公園、特に鉄棒などの遊具がある公園が極めて少なく、子供はどこでどのように遊んでいる…